プロビジョニングの種類・意味|身近な活用方法までわかりやすくご紹介
プロビジョニングは、IT用語に詳しくない人には難しい言葉に聞こえてしまうかもしれません。
注意しなければいけないのは、プロビジョニングには「⚪︎⚪︎プロビジョニング」という様々な種類があり、それぞれ分野や文脈によって意味が全く異なる場合があるという点です。
〈この記事を読んでわかる内容〉
- プロビジョニングにはどのような意味があるのか
- プロビジョニングの種類
- 身近なプロビジョニングの活用例
- プロビジョニングとデプロイの違い
プロビジョニングはシステム開発や運用で役立つ言葉なので、正しい意味を理解して、間違えずに使えるようにしておきましょう。
プロビジョニングとは
プロビジョニングとは、「Provision」という英単語をカタカナにしたもので「準備」「対策」「用意」という意味があります。Provisionが現在分詞の-ing形となったのがプロビジョニングで、「準備・対策・用意すること」という意味になります。
IT分野では、サーバーやネットワークのインフラを準備・設定することや、社員に対してIT環境の初期セットアップすることを指す場合が多いです。
逆に、設定を初期状態に戻すことをデプロビジョニングといいます。ネットワークのアプリケーションやシステム、ユーザーのアクセスを削除する行為を指し、プロビジョニングの反対の意味を持ちます。
プロビジョニングの種類
プロビジョニングという言葉は、幅広い意味を持っています。
作業の内容を明確にするため、プロビジョニングは以下のような種類に分けられています。
- ユーザープロビジョニング
- サーバープロビジョニング
- サービスプロビジョニング
- クラウドプロビジョニング
- ネットワークプロビジョニング
これらのプロビジョニングの種類と意味について、ご説明します。
ユーザープロビジョニング
ユーザープロビジョニングは、「アカウントプロビジョニング」「IDプロビジョニング」とも呼ばれ、アカウント管理に関わる作業を指します。
主な内容はこちらです。
- ユーザーアカウントの作成や保持
- アクセス権限の変更
- ソフトウェアのインストール・設定
- 個人用フォルダの割り当て・変更
業務用アプリケーションソフトにおけるライセンス(利用権)の管理をするライセンスプロビジョニングも、ユーザープロビジョニングに含まれます。
サーバープロビジョニング
システムやサービスの用途に合わせてサーバーを利用可能な状態にするのがサーバープロビジョニングです。
単純にサーバーのみの準備ではなく、以下のような一連の作業が含まれています。
- サーバーの割り当て
- ネットワークの敷設
- 各種システムの設定
- ストレージへの接続
- OSやソフトウェアの導入・設定
サーバーを利用可能にするだけでなく、災害時の対策もサーバープロビジョニングの一環です。障害発生時の復旧作業、利用中のサーバーの割り当ての変更も重要な項目であり、ITインフラの構築から運用まで幅広い範囲を指します。
サービスプロビジョニング
サービスプロビジョニングとは、顧客向けのITサービスの提供やセットアップを指します。
- クラウドサービスやネットワーク回線の構築
- アクセス権限の付与
- メールの設定
- HTTPSの設定
- FTPの設定
- DNSサーバーの設定
インターネット回線を契約した後に受信するメールアドレスやパスワードの設定も、サービスプロビジョニングに含まれます。
クラウドプロビジョニング
組織のクラウド利用の準備をするのが、クラウドプロビジョニングです。デジタル化の推進とともに、企業が扱うデータ量も増加し続けており、自社で物理サーバーを増やしていくのは現実的に難しいことがあります。その場合、クラウドサービスを利用すると低価格・低負担でストレージ容量の増加に柔軟に対応できるようになります。
このようにクラウドサービスの利用準備を整えることをクラウドプロビジョニングと呼びます。
ネットワークプロビジョニング
配線やネットワーク機器などの通信環境を準備するのが、ネットワークプロビジョニングです。
具体的には、これらの内容を指します。
- ルーターのセットアップ
- ファイアウォールの設定
- IPアドレスの割り当て
ユーザーとして、ネットワークを利用する際の準備を指すこともあれば、通信事業者の場合がネットワークサービスを提供することを指す場合もあります。
シンプロビジョニングとは
シンプロビジョニングは、「Thin Provisioning」をカタカナにしたものです。「Thin」は「薄い」という意味があり、ストレージリソースを仮想化し、ストレージの物理的な容量を削減する技術です。
ここからは、シンプロビジョニングの効果や注意点について、確認していきましょう。
- シンプロビジョニングとは
- シンプロビジョニングの効果
- シンプロビジョニングの注意点
シンプロビジョニングとは
従来は、サーバー構築の際に、ストレージ容量を必要以上に割り振っているケースがありました。しかし、その場合だと、実際の運用では過剰スペックになってしまいます。
そこで、必要なストレージ容量のみを物理的に割り振り、残りは仮想化させて割り振ってしまおう、としたのがシンプロビジョニングの考え方です。サーバーが要求するストレージ容量を満たしながら、利用効率も同時に向上させるアプローチということです。
シンプロビジョニングの効果
シンプロビジョニングを利用する効果、メリットとして以下の2点が挙げられます。
- 初期費用を抑えられる
- 柔軟に需要に対応できる
サーバー構築の際に必要な容量のストレージのみを割り当てるので、初期費用が抑えられスモールスタートが可能です。従来必要だったストレージに対して、初期費用だけでなく、ディスク稼働の消費電力も減らすことができます。
またストレージ容量を増加させたくなったとしても、仮想ストレージから容量を振り分けられるので、柔軟に運用することが可能です。
シンプロビジョニングの注意点
シンプロビジョニングではストレージ容量を仮想化し、柔軟に運用できるというメリットがありますが、逆にサーバーが要求する容量が物理的な使用量を超えた場合に、サーバーやアプリケーションでエラーが発生するなど、データ処理が困難になってしまう可能性があります。
サーバー管理者は、ストレージ容量と実際のデータ量を把握し、アプリケーションが正常に作動しているかを確認しておかなければいけません。シンプロビジョニングは、魔法のように容量を増やすサービスではなく、あくまでもストレージを効率的に運用するシステムです。日々増加するデータ量に、どのように対応していくかを考えておく必要があります。
プロビジョニングの活用事例
プロビジョニングは私達の身近な生活でも活用されています。
- 携帯SIMとプロビジョニング
- AWS のプロビジョニング
携帯SIMとプロビジョニング
携帯電話やスマートフォンにはSIMというカードが入っていますが、このSIMカードの設定もプロビジョニングという表現を使用します。
契約者情報を書き込み、利用者が使用できる状態にするという作業が、SIMのプロビジョニングです。基本的には契約時に携帯電話会社が設定してくれますので、利用者本人がプロビジョニングをする必要はありません。
プロビジョニングされていないSIM
正しくプロビジョニングされていれば、SIMのプロビジョニングを意識するシーンはありませんが、スマートフォンにSIMカードを差し込むと「プロビジョニングされていないSIMです」という表記が出る場合があります。
携帯電話会社を乗り換えた時や、スマートフォンを新しくした際にこのような表記が出たら、何らかの原因で契約者情報が読み込めていないという状況です。
- SIMカードの初期設定が未完了
- SIMカード挿入の接触不良
- SIMカードの破損
- SIMカード差し込み口の破損
これらの原因が考えられますので、SIMカードを差し込みし直すだけで改善される場合もあります。格安SIMの場合は、利用者本人で設定をしなければいけないケースもありますので冷静に対応しましょう。
AWSのプロビジョニング
AWS とは、Amazon が提供するクラウドサービス Amazon Web Services の略です。
シンプロビジョニングが採用されており、サーバーやネットワーク、ストレージを流動的に提供しています。AWS では手動ではなく自動で環境構築ができるので、担当者の時間や労力の負担が軽減されます。柔軟性や拡張性などが評価された、世界トップシェアを誇るクラウドサービスです。
プロビジョニングとデプロイの違い
プロビジョニングと似たIT用語で、デプロイという言葉があります。
プロビジョニングとデプロイの違い、デプロイについてご説明します。
- プロビジョニングとデプロイの言葉の意味
- デプロイの具体的内容
- デプロイの種類
プロビジョニングとデプロイの言葉の意味
プロビジョニングとデプロイの言葉の意味は、とても似ています。
プロビジョニング | デプロイ | |
---|---|---|
英語表記 | Provisioning | Deploy |
意味 | 準備すること | 常駐する |
デプロイは開発したソフトウェアを「使える状態にする」という意味合いで使われますので、プロビジョニングと似ていますが、以下のような違いを意識するとわかりやすいでしょう。
- プロビジョニング・・・考え方もしくは一連の作業工程全体を示す。
- デプロイ・・・実際に行動としての「作業実行」を示す。
デプロイの具体的内容
通常、システム開発をする際、行った開発をテスト環境や本番環境に反映される段階で「デプロイ」が使われます。
デプロイに関連する開発作業には、以下のような内容があります。
- ビルド
- リリース(ローンチ)
- インストール
- アクティベート
ビルドとは、プログラミングファイルを実行ファイルに置き換える工程です。ユーザーが利用できるようサービスを提供するのが、リリース(ローンチ)です。ソフトウェアをダウンロードしてデバイスへ配置して、利用できる状態にするのがインストールです。システムを本格的に起動させ利用できるようにするのを、アクティベートといいます。
デプロイの種類
デプロイは、できるだけ早く、確実に行わなければいけません。
ダウンタイムを最小限に抑えながら行うデプロイの手法について、4つご紹介します。
ブルーグリーンデプロイメント(Blue/Green Deployment)
従来のシステムをブルー、新しいシステム環境をグリーンとする手法を「ブルーグリーンデプロイメント」といいます。グリーン環境の構築中であっても、システムを継続できるのが大きなメリットです。
いつでもブルー環境に戻せるので、担当者は安心してグリーン環境の構築ができます。ただし、サーバーリソースが2つ必要になるため、コストがかかるというデメリットがあります。
イミュータブルデプロイメント(Immutable Deployment)
ブルーグリーンデプロイメントを元にした手法で、グリーン環境が軌道に乗ればブルー環境を削除するのがイミュ―ダブルデプロイメントです。
システム環境が最終的にはひとつになりますので、運用の手間やコストが削減できます。デメリットとしては、ブルー環境に戻したくなっても戻せなくなるという点が挙げられます。
シンボリックデプロイメント(Symbolic Deployment)
最初からサーバー環境をひとつで運用するのが、シンボリックデプロイメントです。サーバー内に仮想環境を2つ準備して、旧システムと新システムをデプロイしていきます。
サーバーエラーが発生すると、複数のシステムに影響が出てしまうので、注意が必要です。サーバーがひとつであるのがシンボリックデプロイメントのメリットではありますが、同時に弱点にもなると覚えておきましょう。
ローリングデプロイメント(Rolling Deployment)
システム環境をA・B・Cのように複数に分割して、順番にデプロイしていくのがローリングデプロイメントです。
例えばBがデプロイ中でも、AとCは提供されたままの状態を保てます。
サーバー内に新旧システムが混在する点に注意が必要で、複数の担当者でデプロイする場合は作業進捗の報告を密に行いながら、作業を進めていきましょう。
プロビジョニングは、準備や用意といった意味があり、ユーザープロビジョニング・サーバープロビジョニングなど複数の種類があります。
また、ストレージを仮想化させていく、シンプロビジョニングのような新しい考え方もあります。
ITの進化によって今後も「プロビジョニング」という言葉の使い方が広がっていく可能性もあるため、時代に合わせてシステム環境が変化していくように、柔軟に言葉の使い方も進化させていきましょう。