オンプレミスとは?メリット・デメリット、クラウドとの違いを解説します
「オンプレミス」という言葉を聞いて、正確に答えられる人はどのくらいいるでしょうか?
言葉だけ聞くと何やらよくわからないというイメージを抱くかもしれませんが、言葉の概念自体は決して難しいものではありません。
今回はオンプレミスの意味やメリット・デメリットなどを解説しながら、オンプレミスの実態に迫っていきます。オンプレミスと対になるクラウドと比較しながら、その特徴を見ていきましょう。
オンプレミスとは
オンプレミス(on-premise)とは、サーバーやソフトウェアなどの情報システムを、ユーザー担当者が管理できる施設の構内に設置して運用することをいいます。自社運用とも言われます。
そもそもpremiseとは英語で「構内」「店内」という意味があります。したがって、on-premise環境ではネットワークやサーバーはすべてユーザー担当者が管理できる施設の構内に置かれ、すべてのシステムが自社運用で完結しているのが特徴です。これは、自社の執務室やサーバールームだけではなく、データセンターでハウジングする場合も含まれます。
ハウジングとは、データセンター内にスペースを借りてお客様所有のサーバーやネットワーク機器などを設置することです。スペース(ラック)は借り物ですがサーバー等は自社所有物であり、運用もユーザー担当者が行う為、オンプレミスに属します。
データセンターで運用することで、自社サーバールームよりも安全性、耐震性、耐火性に優れ、電源設備も潤沢であるというメリットがあります。
オンプレミスの歴史
もともと企業におけるシステム構築は、オンプレミス型が主流で、わざわざ「オンプレミス」という呼び方もされていませんでした。それがオンプレミスと名づけられたのは、後にクラウドという運用形態が登場し、それと明確に区別する為です。
以前であれば、企業が基幹システムや業務用システムを運用するとなった場合、電算室という部署(後の情報システム部門)が自らサーバーや通信回線、その他必要な環境を備えてシステム構築・運用を行うオンプレミス型の運用が主流でした。
ホスティングというサービスが出た後も、自社にシステムを構築する技術がある企業は「大事な情報ほど自社管理が一番安心」という考えの下、オンプレミスを選択していたと思います。
当時は真新しいホスティングサービスよりも自社管理の方が実際に強固なセキュリティや高い可用性が得られていたケースもありました。
その後、2000年代になってからクラウドが登場しました。オンプレミスでのシステム構築は、その為のスキルやノウハウを持つ人材の存在が前提となり、また多額の初期投資や運用コストが企業にとって負荷になりますが、クラウドサービスを利用すればそれらが軽減されます。
これにより徐々に浸透していくわけですが、ことさらクラウドサービスを普及させたのが2011年3月の東日本大震災ではないかと思います。それまでに信じられてきた「大事な情報ほど自社管理が一番安心」という考えがもはや神話と化しました。
自社運用で講じることができる冗長構成には物理的にも経済的にも限界があるということ、同時にIT業界の進化によってクラウドベンダーの運用体制が信頼に値するところまでレベルアップしていることが要因となり、加速度的にクラウドが普及していったのです。
さて、クラウドを導入する企業は年々増加傾向にありますが、オンプレミスもまだまだ多いシステム形態です。特に官公庁や金融機関など機密性の高い情報を持っている団体や、複雑なシステムを組んでいる企業においては、クラウドにシフトするハードルは高いのではないかと思います。とはいえ、オンプレミスは規模が大きくなればなるほど構築や運用のための費用と工数がかかる傾向にあるため、そういった団体・企業も新たにシステムを立ち上げるとなれば、クラウドを採用するケースが多くなってきていることでしょう。
オンプレミスを利用している企業はどれくらい?
では、実際にオンプレミスでシステムを運用している企業がどのくらいあるのでしょうか。
令和4年5月に総務省から発表された「令和3年通信利用動向調査の結果」のクラウドサービスの利用状況を見ると、おおよその動向を探ることができます。
こちらの表によると、令和元年の段階でクラウドサービスを利用している企業は64.7%でした。令和2年になるとその数は68.7%、令和3年は70.4%まで上昇しています。
確実にオンプレミス運用と言えるのは「利用していないが、今後利用する予定がある」「利用していないし、今後利用する予定もない」「クラウドサービスについてよく分からない」と回答した企業です。令和3年の段階では、約3割がこれらに該当します。また、「一部の事業所または部門で利用している」と回答した企業もオンプレミス環境は残っていると考えられます。それらを合わせると、最低でも半分以上の企業はオンプレミスでの運用を行っていると言えるでしょう。「全体的に利用している」と答えた企業もオンプレミスを完全に排しているとは言い切れないため、クラウドとハイブリッドで運用している可能性もあります。
そう考えると、完全にクラウド運用にシフトしている企業はまだまだ多くないことが分かります。単にクラウドサービスを忌避している可能性もありますが、自社のシステムをクラウドに載せる場合のメリット・デメリットを理解した上でオンプレミスを採用しているのかもしれません。実際に、ガートナージャパン社が発表した「2021年の日本企業におけるクラウド・コンピューティングに関する調査」ではクラウドの伸長率程ではないものの、オンプレミスへの投資意向も前年対比で上回る結果となりました。
オンプレミスのメリットやデメリット
自社のオンプレミス型システムをリプレースする際、或いはクラウドの導入を検討する際、オンプレミスに関しての知識をしっかり持っておくことは必要不可欠です。
この章ではオンプレミスのメリットやデメリットを解説します。ぜひ、自社のシステム構築の参考にしてみてください。
オンプレミスのメリット
カスタマイズ性が高い
オンプレミスはシステムやインフラの構築をすべて自社で行うため、自由度とカスタマイズ性の高さが最大の魅力です。サーバー構築に使用するハードウェアやOS、ソフトウェアなど、何を使うかは企業の自由。運用する為のネットワークインフラやセキュリティも、自社のポリシーに合わせて自由に設計することが出来ます。
企業独自のシステムを構築することができ、実際に使用する中で不具合や不便が生じた際にも、適宜修正作業やカスタマイズを行うことが可能です。またメンテナンス等の作業日程を自分達の都合で決められるのも大きな利点です。
対してSaaSやPaaSといったクラウドサービスの場合、カスタマイズ範囲は限定されます。
IaaSであれば、オンプレミスと比べるとハードウェアの面でカスタマイズ性は劣るものの、クラウドサービスの中では最も自由度が高いといえるでしょう。
どこまでを柔軟に設計したいかによって選択が異なることを理解しておきましょう。
既存システムとの連携がしやすい
基幹システムや業務システムなど、すでに運用しているシステムとの連携がしやすいのもオンプレミスのメリットです。
クラウドは既存システムとの連携ができないケースがあることがデメリットのひとつとしてあげられます。親和性は肝心な要素です。既存システムと連携できないということは、新しいシステムの導入を諦め既存システムのままで業務を行っていくか、システムを分けて運用を行うかの選択をしなければなりません。
オンプレミスならシステムを新しく追加したり統合したりする際の障害が少ないです。専門知識が必要なのでシステムエンジニアを雇う必要はありますが、情報システム部門を置くことのできる企業であればオンプレミスのメリットは大きいと言えるでしょう。
オンプレミスのデメリット
金銭的・人的コストの大きさ
オンプレミスのデメリットはなんといってもコストです。
ネットワークやサーバーの調達・構築、システムの開発などをすべてあわせると何百万・何千万円といった単位になることも珍しくありません。金銭的なコストだけではなく人的コストも大いにかかります。本稼働開始となるまでの納期もかかります。要件定義から始まり、手間暇をかけて構築したシステムをテスト運用して実践投入し、不具合が生じればその都度修正が必要です。さらに障害対策は自分たちで行わなければなりません。自由にカスタマイズできるということは、裏を返せば不具合が発生した時に自分達で解決しなければならないということでもあります。
カスタマイズ性の高さや他のシステムとの連携のしやすさなど、オンプレミスのメリットはたくさんあります。反面、オンプレミスにはいくつかのデメリットも存在します。メリットとデメリットを天秤にかけたとき、自社にとって利益になるのはどちらなのか、じっくり検討することが重要です。
クラウドとの比較
インターネットを介して提供されるのがクラウドサービスです。クラウドサービスは初期コストが抑えられ導入しやすいことから、これが登場したことによって中小企業でも業務のIT化が検討しやすくなりました。ここでは改めてオンプレミスとクラウドの2つを比較します。
コスト面
オンプレミスの場合、ハードウェアやソフトウェア、ネットワークインフラなどの調達・構築で多大な費用がかかります。また専門スキルを持った担当者の存在も不可欠です。そのため初期投資や運用コストで考えるとクラウドに軍配があがるでしょう。
クラウドの場合、月額費用が従量課金のものがあったり、ライセンスは必要な分のみ購入すれば良かったりなど、利用用途や規模に合わせて必要最低限の予算で運用することができます。
しかし、大規模なシステムを運用していたり、すべての従業員にライセンスを配布する必要があるツールの場合、ランニングコストが膨らみオンプレミスの方が安く済むといったケースもあります。またSaaSであれば専門スキルを持った担当者が必要がないサービスも多く、人的コストが抑えらえるのも特徴です。
オンプレミス | クラウド | |
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初期費用 |
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固定費・維持費 |
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導入スピード
導入スピードはクラウドに軍配があがります。オンプレミスでは、機器の調達から行う必要があり、長いときは数か月、導入までの時間を要します。
その点クラウドであれば、契約後すぐ利用が可能になるサービスも多いです。IaaSはオンプレミスと同じく構築作業が必要ですが、機器の調達は基本的に必要ないため導入スピードは短縮できます。
運用面(カスタマイズ性・拡張性)
オンプレミスの方がカスタマイズ性が高いので、自社に合わせた構築が可能になります。
とはいえ、増強の必要が出た場合など、物理的な機器の用意が必要になるため、迅速さには欠けるでしょう。
クラウドの場合は、プランやオプションを利用することで増強は素早く行うことができる反面、決まったプラン内での対応になるため柔軟性は劣るでしょう。
但し、IaaSであればその限りではありません。
IaaSの場合、CPUやストレージの増強も迅速・柔軟に行えるため拡張性は高いと言えるでしょう。また人材的な観点では、SaaSであれば専門的スキルやノウハウは不要と言えますが、PaaSやIaaSほどの自由度を得ようとした場合にはどちらもエンジニアは必要になりますので、こちらも大きな優劣はないと考えられます。
オンプレミス | クラウド | |
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カスタマイズ性 |
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拡張性 |
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セキュリティ面
オンプレミスは自社のポリシーに沿ったセキュリティ対策を講じる事が出来るのが特徴です。対してクラウドは提供ベンダのセキュリティ強度に依存してしまいます。
とはいえ、近年ではベンダのセキュリティレベルが非常に向上していたり、企業が自社システムやネットワークに講じるセキュリティの信頼性が揺らいできていたりしているため、「オンプレミスの方が安全性が高い」という考え方は見直す必要があります。
オンプレミスは安全性が高い、というよりは、自社のポリシーに合わせたセキュリティ対策が可能、という考えの方が好ましいでしょう。
災害への対応
災害時、オンプレミスだと物理的な機器故障が発生したりすることでシステムダウンなどの影響が生じる可能性があります。
もちろんクラウドであっても提供ベンダーの物理的な機器故障で影響が出る可能性はありますが、設備は分散・冗長化されていることがほとんどです。そのためオンプレミスよりも可用性が高く、有事の際のリカバリーの早さも期待できるでしょう。
もちろん導入するクラウドの種類(IaaS、PaaS、SaaSなど)によっても特徴が異なるため、それぞれの違いについても把握しておくとよいでしょう。
オンプレミスは時代遅れなのか?クラウドとの比較での考察
これまで解説してきた通り、オンプレミスに適した企業やシステムもまだまだ存在します。
「オンプレミスは時代遅れ」「今の時代はクラウドである」といった風潮もありますが、決して時代遅れとは言えません。
テレワークの普及によりクラウドへの移行を検討する企業も多いのが現状ですが、果たして自社のシステムはクラウドに適しているのか、しっかりと吟味する必要があります。また、昨今では「ハイブリッドクラウド」という考え方も出てきているため、オンプレミスとクラウド、完全にどちらかに寄せなければいけないという思い込みも改めなければなりません。
オンプレミスとクラウドの相互利用… ハイブリッドクラウドとは?
ハイブリッドクラウドとは、パブリッククラウドとプライベートクラウド、そしてオンプレミスという3種類のシステムリソースから2種以上を混在させて運用する環境のことです。
余談ですが、パブリッククラウドを複数活用した環境の事をマルチクラウドと呼びます。似ていますが意味が違いますので併せて覚えておきたいですね。
多くの場合、ハイブリッドクラウドというとオンプレミスとパブリッククラウドの併用を指します。
オンプレミスは初期費用や導入期間がかかり、その後の運用・保守も大変です。しかし、カスタマイズ性の高さや既存システムとの連携のしやすさ等、メリットも見逃すことはできません。対してクラウドには、初期費用や運用コストが抑えられる、導入までの期間が短いといったメリットがあります。しかし、動かすシステムによってはサービス利用料が莫大になってしまったり、思わぬ制限にぶつかりオンプレミスと同等の性能を得られなかったりといったリスクもあります。そこで、オンプレミスとクラウドを同時利用することで両者のいいとこ取りをしてしまおうという考え方です。
安易にクラウドに完全移行せず、ハイブリッドクラウドという案を持てば、パフォーマンスの低下や余分なコスト増を防ぐことができるかもしれません。
オンプレミスからクラウドに移行すべき場合とは
オンプレでシステムが問題なく稼働していれば、できればその環境には極力手を加えたくないというのが情シスの本音だと思います。24時間365日稼働が必要なサーバーだったり、複雑な設計のものであればなおさらです。
とはいえ、現代の働き方などを考慮するとクラウドを採用するメリットが大きい場合も多々ありますので、あえてクラウドを倦厭する必要はないかと思います。
クラウド移行に適しているタイミング
- 新しいシステムを導入・構築するとき
- 既存のネットワーク構成(アドレス体系など)に変更が加わるとき
- サーバーをリプレースするとき
- 利用中のデータセンターからの移転や退去が必要なとき
- サーバーを追加したいが利用中のデータセンターのラックに空きがないとき
クラウド移行の検討ポイント
オンプレミスからクラウドへ移行する場合、自社システムが実際にクラウドで構築・運用可能かどうかを、金銭的・人的コストや他システムとの連携、セキュリティポリシーなどの面から検討する必要があります。
初期費用はオンプレミスと比べてクラウドのほうが断然安くなります。しかし、クラウドはサービス利用料が発生します。そのため、長期的に見るとクラウドの方が費用が高くなるケースも多く、コスト削減が目的の場合は注意が必要です。
実際に、米大手ITサービス提供企業ではAmazon Web Services(AWS)というAmazonが提供するクラウドサービスからオンプレミスに移行し、2年間で約81億円コスト削減できたという例もあります。
そう聞くとオンプレミスにはランニングコストがかからないようにも思えますが、使用するハードウェアやソフトウェアの保守ラインセンス費用、セキュリティ投資の費用などは最低限かかってきますし、
運用を行うエンジニアの人的コストも見逃されがちなので注意が必要です。その点、クラウドの利用料にはある意味ハードウェアやセキュリティ対策の費用も含まれているため、保守ライセンスの管理やシステムの俗人化から脱却したいというのもクラウド移行の検討ポイントとなります。最近は運用までアウトソースできるフルマネージドのクラウドサービスも充実しているため、そういったものを検討しても良いでしょう。
クラウドへ移行する方法と注意点
オンプレミスのシステムをそのままクラウドに移行する場合、オンプレミスのサーバーを仮想化、それをクラウドに移行し、データをクラウド上にコピーする方法が一般的です。
業務で使用しているアプリケーションなどをクラウド上で再構築して、データのみをクラウドにコピーして移行するといったケースもあります。
SaaSへ移行する場合、サービスによって方法が異なります。既存のデータを十分に引き継ぎできない場合もあります。
移行する際には、必要なスペックや料金、セキュリティや可用性など、様々な観点からどのクラウドをどういったプランで利用するかを考える必要があります。
導入検討時は、各サービスベンダやセキュリティの専門家などを交えて検討することが望ましいでしょう。
クラウドに移すことで、そのクラウドに接続する回線も必要になります。運用するシステムに耐え得る安定した回線を選定することが重要です。クラウドサービスと直接接続できるサービスもあるため、必要に応じて検討しましょう。
ガートナージャパン社の提言
ガートナージャパンが2023年3月16日に発表したオンプレミスに関する展望では、「オンプレミスかクラウドか」ではなく「従来型(Old)か新型(New)か」の時代になるだろうと示唆されています。
2026年までに、オンプレミスベンダーの技術の90%は新型のオンプレミスに切り替わっていくとされており、このような変化の影響を受けるのはメインフレーム※を利用している企業になるとのことです。
※メインフレーム:1日あたり最大1兆件のWebトランザクションを処理することができるコンピューターのこと
富士通のメインフレーム事業撤退などにより、新環境への移管を検討している企業も増えていますが、まだまだそれを進める企業は多くないのが現状のようです。
業界としても大きく変わっていく時期になります。
情シスとしては、しっかりと新しい情報を追いかけていきたいですね。
オンプレミスとは昔からある企業のシステム形態です。クラウドを利用する企業も増えていますが、米大手ITサービス提供企業ではオンプレミス回帰するなど、オンプレミスの需要もまだまだ高いと言えるでしょう。
導入する際は、自社にとって利益につながるのはオンプレミスなのかクラウドなのか、しっかりと吟味することが重要です。