SQLインジェクションとは?企業が取るべき7つの対策とリスク回避のポイント
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エンジニアやセキュリティ担当の方でなければ、「SQLインジェクション」という言葉はあまり馴染みがないかもしれません。しかし、これはWebサイトやWebアプリケーションを運営する上で、避けては通れない非常に深刻なサイバー攻撃のひとつです。
そこで今回は、SQLインジェクションの仕組みと攻撃を受けた場合のリスクについて分かりやすく説明します。具体的な対策についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
<この記事を読んでわかること>
- SQLインジェクションとはなにか
- SQLインジェクションによって生じる被害
- SQLインジェクションの実際の被害事例
- SQLインジェクションの対策方法
【前提知識】データベースとSQLの関係
SQLインジェクションの仕組みを理解するためには、まず「データベース」と「SQL」の関係を知る必要があります。
Webサイトは、ユーザーからのリクエストに応じて、SQL(Structured Query Language)という言語を使ってデータベースから情報を取得したり、新しい情報を登録したりしています。
例えば、ログイン画面でユーザー名とパスワードが入力されると、Webサイトは「このユーザー名とパスワードがデータベースに登録されているか調べて」というSQL文を生成し、実行します。具体的には以下のようなSQL文が作成されます。
SELECT * FROM users WHERE username = 'ユーザー名' AND password = 'パスワード';
これは、「usersというデータの中から、入力されたユーザー名とパスワードに一致するものを探して」という命令です。
SQLインジェクションとは?
SQLインジェクションとは、WebサイトやWebアプリケーションの脆弱性を悪用し、ユーザーからの入力を介してデータベースに不正なSQL命令を送り込むサイバー攻撃です。
Webサイトでユーザー登録をしたり、商品検索をしたりする際、入力した情報はすべてデータベースに送られ、処理されています。SQLインジェクションは、このデータベースを操作するための言語であるSQLを悪用し、悪意のあるコードを注入(インジェクション)することで、データベースを不正に操作します。
攻撃の仕組み
Webサイトのログインフォームを例に挙げます。通常、ユーザー名とパスワードが入力されると、システムはデータベースにそれらが存在するかを確認するSQL文を生成します。
しかし、攻撃者がユーザー名入力欄に「' OR '1'='1」のような特別な意味を持つ不正な文字列を入力すると、Webサイトは意図しないSQL文を生成してしまいます。
生成される不正なSQL文の例:SELECT * FROM users WHERE username = '' OR '1'='1' AND password = ''
このSQL文は「ユーザー名が空欄であるか、または1が1と等しい」という命令になります。「1=1」は常に真であるため、パスワードが不正であってもデータベース内のすべてのユーザー情報を取得し、ログインが成功してしまいます。

SQLインジェクションによる被害とは?4つのリスクを解説
SQLインジェクションは、単にWebサイトを改ざんするだけでなく、攻撃者がデータベースを自由に操作することを可能にし、個人や企業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。具体的には、以下のようなリスクが考えられます。
- 個人情報・機密情報漏えいのリスク
- サービス停止や信頼失墜のリスク
- 法的・金銭的被害のリスク
- 踏み台攻撃に利用されるリスク
個人情報・機密情報漏えいのリスク
重大な被害としては、個人情報や機密情報の流出が挙げられます。攻撃者は、氏名や住所、電話番号、メールアドレス、クレジットカード情報などをデータベースから盗み出す可能性があり、これにより企業の経営や信用に深刻な影響を及ぼします。

サービス停止や信頼失墜のリスク
攻撃によってシステムが停止したりデータが改ざんされた場合、サービスの継続性が損なわれるだけでなく、顧客や取引先からの信頼を失うことにもつながります。その結果、売上の減少やブランド価値の低下を招く可能性があります。特に外部に公開しているサービスでは、一度失われたユーザーからの信頼を回復するには、多大な時間とコストがかかることが少なくありません。
法的・金銭的被害のリスク
SQLインジェクションは、情報漏えいや不正アクセスを引き起こす可能性があり、その場合、不正アクセス禁止法や個人情報保護法といった法規制に抵触する恐れがあります。さらに、攻撃後の調査やシステム復旧、顧客への補償など、多額の金銭的費用が発生する可能性もあります。
踏み台攻撃に利用されるリスク
SQLインジェクションによる被害は、情報流出やデータ改ざんにとどまりません。Webサイトが攻撃者に乗っ取られ、他のサイバー攻撃の「踏み台」として悪用される危険性があります。
攻撃者は脆弱性を利用してWebサイトのサーバーに不正なプログラムを埋め込み、そのサーバーを介して他の標的を攻撃します。もし管理するサイトが踏み台にされた場合、意図せずサイバー犯罪に加担することになり、社会的信用を大きく損なう可能性があります。
データが語るSQLインジェクションの脅威
SQLインジェクションの脅威は、公的なデータやランキングからも明らかです。
OWASP Top 10
OWASP(Open Worldwide Application Security Project)は、Webアプリケーションのセキュリティリスクをまとめた「OWASP Top 10」を定期的に公開している国際的な非営利団体です。このリストは、開発者や企業が優先的に対策すべき脆弱性を示しており、SQLインジェクションは長年にわたり上位にランクインしています。
特に、最新の2021年版では、「SQLインジェクション」を含む「インジェクション」が3位に位置付けられており、インジェクション攻撃が依然としてWebサイトにとって最も重大な脅威の一つであることを示しています。
情報セキュリティ10大脅威 2025
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が毎年発表する「情報セキュリティ10大脅威」の組織編第3位にランクインしている「システムの脆弱性を突いた攻撃」は、SQLインジェクションと密接に関連しています。SQLインジェクションは、WebサイトやWebアプリケーションの脆弱性を悪用する攻撃の代表例であり、この脅威の項目が上位にあることは、対策の重要性が依然として高いことを示しています。
SQLインジェクションによる実際の被害事例
ここでは、実際に発生した2つの被害事例をご紹介します。
大手ゲーム機メーカー|数千万件の個人情報が漏えい
2011年にある大手ゲーム機メーカーが提供するオンラインゲームサービスで、標的型とみられる大規模なサイバー攻撃が発生しました。この攻撃はSQLインジェクションが原因で、約7700万人もの個人情報が漏えいしました。
流出した情報は多岐にわたり、氏名や住所、メールアドレス、生年月日、パスワード、オンラインID、さらには購入履歴や請求先情報まで含まれていました。
大手オフィス用品メーカー|12万件の顧客情報流出
ある大手オフィス用品メーカーのECオンラインショップにおいて、大規模な顧客情報流出事件が発生しました。2020年に同社のシステムがSQLインジェクション攻撃を受け、最大12万件の顧客情報が流出した可能性があると発表されています。
この攻撃により、顧客の氏名や住所、電話番号、メールアドレスといった個人情報だけでなく、クレジットカード情報も一部含まれていたことが明らかになりました。攻撃者は、ウェブサイトの脆弱性を突き、悪意のあるプログラムを挿入してデータベースから情報を不正に抜き取ったとされています。
SQLインジェクションの具体的な対策方法7選
ここでは、SQLインジェクションの7つの対策方法について詳しく解説します。
- プレースホルダーを利用する
- 入力値の検証(バリデーション)
- エスケープ処理
- エラーメッセージの制御
- 権限を設定する
- WAF(Web Application Firewall)の導入
- 脆弱性診断の定期的な実施
プレースホルダーを利用する
この手法は、SQL文の構造とユーザーからの入力値を完全に分離する仕組みです。この方法を用いることで、ユーザーがどのような文字列を入力しても、それは常に「データ」として扱われ、命令として解釈されることはありません。例えば、ログイン画面で不正なコードが入力された場合でも、それは単なる文字列として処理されるため、攻撃が成立することはありません。
入力値の検証(バリデーション)
ユーザーが入力する値のチェックも非常に重要です。入力値のバリデーションとは、ユーザーから送信されたデータが想定した形式や範囲内であるかを確認する処理のことです。例えば、メールアドレス欄にはメール形式のみを許可し、電話番号欄には数字だけを受け付ける、といった制御を行います。これにより、攻撃者が特殊文字や不正なSQLコードを入力しても、システムが受け付けないようにできます。
エスケープ処理
入力値のバリデーションに加え、SQLに渡す前に特殊文字を適切にエスケープすることも有効です。
エスケープ処理は、SQLにおいて特別な意味を持つ記号(「’」や「;」など)を、SQL文としてではなく単なる文字列として認識させることで、無効化する仕組みです。これにより、攻撃者が入力欄に「’ OR ‘1’=’1」のような文字列を入力しても、SQL文の改ざんを防ぎ、セキュリティリスクを低減できます。
エラーメッセージの制御
システムが出力するエラーメッセージの制御も重要なポイントです。デフォルトの設定では、データベースのエラー情報やSQL文の構造などがユーザーに表示されることがあります。攻撃者はこの情報を手がかりに、脆弱性を見つけ出したり、より高度な攻撃を仕掛けたりする可能性があります。
そのため、ユーザーに表示するエラーメッセージは必要最低限に留め、詳細情報はサーバー側のログに記録して開発者や運用担当者のみが確認できるようにします。例えば、「入力に誤りがあります」といった簡潔なメッセージに留め、SQL文やテーブル名など内部情報は表示しないことが基本です。
権限を設定する
データベースユーザーに適切な権限を付与することも有効な対策です。例えば、データの読み取りのみを必要とする画面で誤ってデータ削除や更新の権限を与えてしまうと、攻撃者にその操作を悪用される可能性があります。アプリケーションが操作できる範囲を限定することで、万が一攻撃を受けた場合でも、攻撃者が利用できる権限が制限されるため、被害を最小限に抑えることができます。
WAF(Web Application Firewall)の導入
SQLインジェクション対策として有効な手段のひとつに、WAF(Web Application Firewall)の導入があります。WAFはWebアプリケーションへのアクセスを常に監視し、攻撃と思われるリクエストを自動でブロックする仕組みです。これにより、攻撃者が入力フォームやURLに不正な命令を仕込もうとしても、システムやデータベースに到達する前に防ぐことができます。
特に、既存のシステムや古いアプリケーションではコードを修正するのが難しい場合がありますが、WAFを導入することでこれらの脆弱性を即座にカバーできます。また、最新の攻撃パターンに対応するタイプのWAFであれば、従来の方法では防げなかった新しい手口にも効果を発揮します。

脆弱性診断の定期的な実施
WebサイトやWebアプリケーションの定期的な脆弱性診断も非常に重要です。この診断では、セキュリティ専門家がシステムを調査し、SQLインジェクションに対する脆弱性の有無や程度を評価します。定期的な診断によって脆弱性を早期に発見・修正できるため、情報漏えいなどのリスクを軽減することができます。

SQLインジェクションは、WebサイトやWebアプリケーションの脆弱性を突くサイバー攻撃です。対策を怠ると、情報漏えいやデータ改ざんなど深刻な被害につながる恐れがあります。
この機会に、自社のWebサイトやWebアプリケーションのセキュリティ課題を見直し、必要な対策を講じましょう。これにより、大切な情報資産をSQLインジェクション攻撃から守り、顧客や取引先からの信頼を維持することができます。
情シスマンを運営するUSEN ICT Solutionsでは、WAFや脆弱性診断サービスをはじめとした幅広いセキュリティソリューションを提供しています。「自社のセキュリティ対策が十分か不安」「専門家のアドバイスが欲しい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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よくあるご質問
最後に、SQLインジェクションに関してよくある質問とその回答をまとめました。
Q.SQLインジェクションは、どのようなWebサイトが標的になるのですか?
ユーザーからの入力を受け付けてデータベースに接続している、あらゆるWebサイトが標的となり得ます。特に、ログイン機能や検索窓、問い合わせフォームなど、テキスト入力欄を持つサイトは狙われやすい傾向があります。
Q.SQLインジェクションは、どのようなデータベースで起こるのですか?
データベースの種類(MySQL、PostgreSQL、Oracle など)に関わらず、ウェブサイトの脆弱性があれば発生します。
Q.SQLインジェクションとクロスサイトスクリプティング(XSS)は、何が違うのですか?
SQLインジェクションはウェブサイトのデータベースを標的とし、データの不正操作を目的とします。一方で、クロスサイトスクリプティング(XSS)はウェブサイトを閲覧するユーザーを標的とし、ブラウザ上で不正なスクリプトを実行させて情報を盗み出します。