ITリテラシーが低い会社の問題点とは?改善方法の手順や注意点もわかりやすく解説

近年、企業を取り巻くIT環境は目まぐるしく変化しています。サイバー攻撃の手口は巧妙化し、情報漏えいのリスクは増大の一途を辿っています。
一方で業務効率化や生産性向上のためには、ITツールの適切な活用が不可欠です。もし自社で「社員のITスキルに不安がある」「新しいシステムがなかなか浸透しない」といった課題を感じているなら、組織全体のITリテラシー向上に取り組むべきタイミングと考えた方が良いでしょう。
本記事では、ITリテラシーの低い会社の特徴やそれを改善するための方法を解説します。具体的な手順から注意点まで詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
なぜ重要?ITリテラシーが低いことの問題点
ITリテラシーは、企業のデジタル化やDX促進に伴って、その必要性が注目されている能力です。ITリテラシーが低いとどのような問題が起こるのか、見ていきましょう。
情報セキュリティリスクが高まる
ITリテラシーが低い従業員が多い会社では、セキュリティレベルが低下し、様々なリスクが生じやすくなります。例えば、以下のようなリスクが考えられます。
- 不審なメールに気づかず安易に添付ファイルを開いてしまう
- 強度の低いパスワードを使ったり、同じパスワードを使い回したりしてしまう
- 私的なUSBメモリーを業務で使用してしまう
- 重要な情報の入ったデバイスを公共の場所に忘れてしまう
些細な行動であっても重大なセキュリティインシデントに繋がる可能性は十分にあります。いくらセキュリティ担当者が様々な対策を施したとしても、ITリテラシーの低い従業員の軽率な行動によって、トラブルは簡単に発生してしまいます。そうした事態を防ぐためには、従業員一人ひとりのITリテラシーを高めセキュリティ意識を向上させる必要があります。
さらに、情報漏えいやシステム障害といったセキュリティインシデントは、顧客や取引先からの信頼を大きく損ない、会社のイメージダウンに繋がりかねません。ITリテラシーの低い従業員による不注意な操作が原因でインシデントが発生した場合であっても、責任は会社にあると見なされ社会的な信用を失墜させる可能性があります。

業務効率が向上しない
従業員のITリテラシーが低いと、業務効率にも悪影響があります。最新のITツールを導入しても、十分に使いこなせないためです。
例えば、表計算ソフトの基本的な関数を知らないために手作業での集計に時間を費やしたり、クラウドストレージの共有機能を理解していないために何度もメールでファイルをやり取りしたりといったケースが考えられます。
また、なんとか新しいツールを習得できたとしても、ITリテラシーが低いと、研修や問い合わせ対応に手間がかかりスムーズな導入が妨げられることもあるでしょう。
業務効率の面から見ても、従業員のITリテラシーが低いのは見逃せない問題です。
DX推進が進まない
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデルや業務プロセスを変革する取り組みです。最新のIT技術によって、競争優位性を確立することを目指します。
しかしDXを推進するためには、従業員がデジタル技術に対する基本的な理解と活用能力を持っている必要があります。データ分析やAI活用のためには、ITツールの活用以上に高度なITリテラシーが求められます。
企業の競争力を維持・向上させるためにも、従業員のITリテラシーの向上は重要な戦略となるでしょう。
そもそもITリテラシーとは
ここで1度、原点に立ち返り、ITリテラシーの意味についておさらいしておきましょう。言葉の定義や含める領域、細分化したときの種類について解説します。
ITリテラシーはIT活用の基礎的な考え方
ITリテラシーは、日々の業務でITを効果的に活用するための土台となる考え方です。厚生労働省の「平成 29 年度基礎的 IT リテラシーの習得カリキュラムに関する調査研究報告書」によると、以下の定義がなされています。
「現在入手・利用可能なITを使いこなして、企業・業務の生産性向上やビジネスチャンスの創出・拡大に結び付けるのに必要な土台となる能力のこと。いわゆるIT企業で働く者だけでなく、ITを活用する企業(ITのユーザー企業)で働く者を含め、全てのビジネスパーソンが今後標準的に装備することを期待されるもの。」
ITリテラシーは、IT技術を効果的に活用するための能力です。単なるツールの操作スキルではなく、ITに関する理解力や思考力を持ち、IT技術や情報を適切に扱う能力そのものを指します。電子メールや表計算ソフトを使いこなせることが、ITリテラシーが高いということではない点に注意しましょう。
ITリテラシーの種類
ITリテラシーは細かく分類すると、以下の3種類に分けることができます。
情報基礎リテラシー
情報基礎リテラシーは、膨大な情報の中から、自分に必要なものを見つけ出したり、その正確性を見極めたりする能力です。
インターネットの普及により、私たちがアクセスできる情報量は爆発的に増えました。情報量が多いということは、自分とは関係のない情報や誤った情報も含まれるということです。それらの情報の中から自分にとって有益な情報を効率的に取得する能力が求められています。
情報基礎リテラシーが低いと、不要な情報に埋もれて、必要な情報を素早く見つけられないばかりか、誤った情報に基づいた判断や行動によりトラブルが発生してしまう可能性もあります。
コンピューターリテラシー
コンピューターリテラシーは、パソコンやスマートフォンなどのIT機器や、Microsoft の Excel や Word といった多くのビジネスの現場で広く使われている一般的なソフトウェアを扱うことができる能力です。
パソコンやスマートフォンに加え、プリンターなどの周辺機器といったハードウェアの操作と、ファイルの作成・編集・保存などソフトウェアの操作の両方が含まれます。
一般的に「ITリテラシー」と聞いたときにイメージするのは、この「コンピューターリテラシー」かもしれません。
インターネットリテラシー
インターネットリテラシーは、インターネットを安全に使うための能力です。細かい技術的なところまで理解する必要はないですが、インターネットの仕組みに関して、その概念を理解しておく必要があります。
インターネットは、全世界に開かれた空間です。関係者だけに伝えたい情報を誤ってインターネットに公開してしまうと、簡単に情報漏えいにつながってしまいます。セキュリティの観点だけでなく、プライバシーの観点からもインターネットでの情報発信には、細心の注意が必要です。
特にSNSは仲間内だけで情報共有しているような気になってしまうこともありますが、第三者に見られる可能性があることを理解した上で正しく使うようにしましょう。
【3ステップ】今日から始める!社員のITリテラシー向上計画
ここまでは、ITリテラシーが低いことの問題点や、ITリテラシーがどんな能力なのかを紹介してきました。ここからは、ITリテラシーを向上させるための3つのステップをご紹介します。
ステップ1.現状のITリテラシーレベルを把握する
社員のITリテラシーを向上させるには、まず社員一人ひとりの現在のITリテラシーレベルを客観的に把握する必要があります。調査には以下のような方法あります。
- アンケート調査
- スキルチェックリスト
- 面談
この際、単に知識の有無を問うだけでなく、実際の業務におけるITの活用状況や課題点など、実態に即した状況も把握しておくことが重要です。現状を正確に理解しておくと、どの層にどのような研修が必要なのか、具体的なニーズを特定できます。
自社のITリテラシーレベルを知りたい方は、こちらの診断テストを試してみてください。10問の質問に答えるだけなので、3分程度で診断できます。

ステップ2.具体的な目標と計画を立てる
次に、現状把握の結果を踏まえ具体的な目標を設定します。このとき、社員一人ひとりのITリテラシーにマッチした目標と計画を立てることが重要です。部署や個人によって、ITリテラシーにはばらつきがあるので、全体でまとめてしまうと、あまり効果が見込めない可能性があります。
さらに、業務内容によって必要なITリテラシーが異なる点にも注意しましょう。例えばSNSや公式サイトで情報発信を行う業務の場合、インターネットやセキュリティ、プライバシーに関する高度なリテラシーが要求されます。
具体的な目標を立てられれば、研修プログラムの内容や実施時期、担当者などを決め、計画的に実行できるように準備します。
ステップ3.継続的な学習と実践の機会を作る
具体的な目標と計画を立てたら、いよいよITリテラシーを高める施策の実施です。この際、1度実施して満足するのではなく、継続的な学習と実践の機会を作っていくようにしましょう。IT技術は常に進化しているため、今日の知識が明日には古い知識になっている、なんてことも少なくありません。
そのため、ITリテラシーを高める際は社員が継続的に学習し、身につけた知識やスキルを実践できる機会も提供することをオススメします。定期的な研修やeラーニングの導入、社内勉強会の開催などに取り組みながら、社員のITリテラシーを着実に向上させていきましょう。
無理なくできる!ITリテラシーを底上げする具体的施策
会社のITリテラシーを向上させる方法として、以下のような施策が考えられます。自社の状況に合わせて実施しやすいものから取り入れてみてください。
基礎から学べる研修やセミナーを導入する
ITリテラシーを高めるための方法として、研修やセミナーを導入する方法があります。初心者にもわかりやすい内容を心がけ、段階的にレベルアップできるようなプログラムを用意すると良いでしょう。
この際、ITリテラシーが低いと企業にどのようなリスクが生じ、現場にどのようなデメリットが発生するのかを伝えるようにしましょう。社員に自分事として認識してもらえるほど、高い効果に期待できます。
このとき、社内に研修を行える部署があれば内製化できますが、そもそも社内にノウハウがない場合は外部の専門家を頼る必要があります。
メンター制度を導入する
ITスキルに長けた社員をメンターとし、ITリテラシーに不安のある社員に対して個別の指導やアドバイスを行う方法も有効です。日々の業務の中で疑問点を気軽に質問できる環境を作り、実践的なスキル向上を促せます。
また、人に教えることを通じてメンター自身への知識・技術の定着にも期待できます。メンターとなった社員のモチベーション向上にも繋がるでしょう。
ITの資格取得支援制度を設ける
ITに関する資格取得を奨励し、受験料の補助や合格時の報奨金などを支給する方法もあります。資格取得という明確な目標を設定して、社員の学習意欲を高め、体系的な知識の習得を促します。
まずは以下のような初心者向けの資格を中心にアナウンスしてみると良いでしょう。
- ITパスポート
- 情報セキュリティマネジメント
- MOS(Microsoft Office Specialist)
取得した資格は、社員のスキルアップの証明となり、組織全体のITリテラシー向上にも繋がります。そのためにも、資格に挑戦しやすい環境を醸成していきましょう。
積極的にITツールを導入して、新しい技術に触れる機会を増やす
新しいITツールを導入する際、便利になるとは分かっていても、使い慣れたこれまでのツールの方が使いやすいと言われてしまうこともあるかと思います。実際、操作方法を習得するまではそうかもしれません。とはいえ、一部の人からの反発を恐れて、新しいツールを導入できなければ、業務効率を改善したり、会社として成長し続けることは難しいでしょう。
反対に、積極的にITツールを導入することで、必要に迫られて習得できるという側面もあります。ITが苦手な人たちをフォローアップする体制は必要ですが、実際の業務の中で慣れてもらうこともリテラシー向上には役立つ場合があります。
使いやすいITツールを導入する
必要に迫られて習得してもらうと言っても、あまりにもハードルが高すぎると、ついてこれない人も出てくると思います。ITリテラシーに不安のある社員が多い場合は、直感的で操作しやすいITツールを導入するのも大切です。
シンプルなインターフェースで、基本的な操作が簡単にできるツールを選ぶようにしましょう。導入前に実際に触ってみて、操作感を確かめておくのも大切です。苦手な人でも簡単に使えるかどうか慎重に選定しましょう。
わかりやすいマニュアルやガイドを作成する
導入したITツールの操作方法や社内の運用ルールなどをわかりやすくまとめたマニュアルやガイドを作成しておくのも大切です。専門用語を避けたり、図やイラストを使って視覚的にわかりやすくする、動画形式にするなど、理解しやすいように工夫して作成しましょう。
マニュアルやガイドは、ユーザーが自分で参照して解決を促すものですが、導入時には、より手厚いサポートを行うことも検討してみてください。例えば、研修を実施したり、問い合わせ窓口を設置したりすることが有効です。
ITリテラシー向上における3つの注意点
ITリテラシー向上の施策を実践する際、つい疎かにしてしまがちですが、以下の点には注意が必要です。
一方的な押し付けにならないように配慮する
ITリテラシーの向上は、社員自身の成長を促すものであり、メリットがあるからといって押し付けにならないように気を付けましょう。一方的に研修や学習を強制するだけでは、反発を招く可能性があります。
社員に研修やセミナーなどを受けてもらう場合は、なぜITリテラシーの向上が会社や自身の業務にとって重要なのかを丁寧に説明し、社員の理解と納得を得ながら進めるようにしましょう。
中長期的な視点で考える
ITリテラシーの向上は、短期間に激的な効果が出るものではありません。ITが得意な人もいれば苦手な人もいるため、個人によって習得スピードが異なります。中長期的な視点で計画を立て、継続して取り組んでいきましょう。
その際、定期的に効果測定を実施しながら、改善を重ねていくと成果を実感しやすいです。社員一人ひとりの素養に合わせて、ITリテラシーを向上させていく姿勢が求められます。
教育にはコストと時間がかかる
ITリテラシーの向上には、研修や教材の準備、講師への支払いなど、一定のコストがかかります。研修では業務時間を割く必要もあるため、短期的な生産性が低下する可能性もあります。
また、専門的な知識を持つ講師の確保や、継続的なフォローアップなどにもリソースが必要です。ITリテラシーを向上する取り組みを実施する際は、そうしたリソースを考慮しながら計画を立てるようにしましょう。
サイバー攻撃の手口は日々巧妙化し、企業を取り巻くIT環境も急速に変化しています。このような状況下において、従業員一人ひとりのITリテラシーの向上は、企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠な要素です。
ITリテラシーの向上はセキュリティリスクの低減や業務効率の向上、新しい技術への適応力を高められるため、結果として企業全体の価値向上に大きく貢献します。今回紹介した内容を参考に、ぜひITリテラシー向上への取り組みを進めてみてください。