IT初心者からプロの道まで:セキュリティ資格の選び方ロードマップ2025(後編)

はじめに
前回は、主にIT分野初心者の方や、情シス担当者に向けた資格やキャリアパスの紹介をしました。後編となる本記事においては、更により高みを目指して、セキュリティエンジニアを志す人に対して相応しい資格を共有いたします。
エンジニアといっても少し広いですが、本記事では特にセキュリティ分野での実務スキルを強化したい方を対象に、いわゆる「攻撃系(レッドチーム)」「防御系(ブルーチーム)」「クラウド・インフラ系の専門職」など、役割別に資格を整理してご紹介します。セキュリティエンジニアの領域は年々広がっており、単に知識を得るだけでなく、「実際にどのような技術スタックを深めたいか」「将来的にどんな職域を目指すか」によって取るべき資格も大きく変わってきます。
本記事では、「実務につながる」「市場価値がある」「将来性が高い」という観点から、選び抜いた資格を分類しながら紹介していきます。
※難易度は★が1、☆を0.5として表し、1.0〜5.0 の間で表記いたします。
本格的にセキュリティエンジニアを目指すキャリアパス
A. 脆弱性診断・ペネトレーションテストに取り組みたい
※ペネトレーションテストとは、攻撃者目線で実際に攻撃を行い、脆弱性がどこまで悪用可能かを検証する試験です。
CEH(Certified Ethical Hacker)(難易度:★★★)
EC-Council が提供する資格で、攻撃手法や防御策の概要を幅広く学び、ホワイトハッカーの理論を体系的に学ぶための内容となっています。グローバルセキュリティエキスパートなど、複数の企業が日本語での講義を提供しています。なお、試験だけを受ける場合は、講義の受講は必須ではありません。
※CEHの上位互換として「CPENT(Certified Penetration Testing Professional)」があり、さらに類似資格としては Offensive Security 社が提供する「OSCP」も存在します。

CompTIA PenTest+(難易度:★★☆)
CompTIA が提供する、脆弱性の特定からエクスプロイトの実行、報告書の作成までを実務視点で網羅したベンダー中立の資格です。初心者がペネトレーションスキルの土台を築くために最適な内容となっています。

CRTP(Certified Red Team Professional)(難易度:★★★☆)
Altered Security が提供する資格で、Active Directory 環境を想定した内部侵入・権限昇格・横展開などの技術を学ぶことができます。特に Active Directory に関する知識が不足していると感じるペネトレーションテスターにとって実用性の高い資格です。内部環境の脆弱性調査やレッドチーム活動に関心のある方におすすめです。

GPEN / GWAPT(難易度:★★★☆)
SANS Institute が提供する、世界的にも認知度の高い資格試験です。GPEN は「GIAC Penetration Tester」の略で、ネットワーク層のペネトレーションテストを対象としています。GWAPT は「GIAC Web Application Penetration Tester」の略で、Webアプリケーションに対するペネトレーションテストを学ぶ資格です。トレーニング自体も非常に有益ですが、受講費用が高額なのが難点です。SANS Japanでは日本語通訳付きの講座も提供されています。
※GIAC:SANS Institute が認定するセキュリティ関連資格の総称
TryHackMe Certified PT1(難易度:★★★☆)
TryHackMe が提供する、ペネトレーションテスト入門者向けの資格です。TryHackMe 上のカリキュラムを一定レベルまで修了すると受験資格が得られ、基本的な攻撃手法・脆弱性スキャン・初歩的な侵入手法についての理解度が問われます。ハンズオン中心のため、実践を通じて学びたい初心者に適しています。
HTB Academy(実践演習)
こちらは資格というよりも、仮想ラボを用いた実践型のトレーニング環境です。HTB Academy 自体は、各モジュールを通じたハンズオン学習を重視しており、修了時にはスキルバッジや修了証明書が提供されます。また、Academy 内の特定パスを修了することで、HTB が独自に提供する資格試験(例:Certified Bug Bounty Hunter)へのステップアップも可能です。資格とトレーニングが連動しているため、スキルの習得から証明までを一貫して進めることができます。
Penetration Tester(ペネトレーションテスター)のモジュールも存在するため、基礎的な所からペネトレーション技術を学べます。筆者も Hack The Box Academy には非常にお世話になりました。

資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
CEH(Certified Ethical Hacker) | ★★★ | EC-Council (米国) | 選択式(CBT) | 約$1,199(試験+公式教材) |
CompTIA PenTest+ | ★★☆ | CompTIA(米国) | 選択式(CBT)+実技 | 約$392 |
CRTP(Certified Red Team Professional) | ★★★☆ | Altered Security(インド・シンガポール) | 実技 | 約$249 |
GPEN / GWAPT | ★★★☆ | SANS(米国) | 選択式(CBT) | 約$949(試験のみ) |
TryHackMe Certified PT1 | ★★★☆ | TryHackMe(英国) | 実技+レポート | 約£50 |
HTB Academy | ー | Hack The Box(英国) | 実践演習 | ー |
B. ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)領域に進みたい
CISA(公認情報システム監査人)(難易度:★★★☆)
前編でも紹介したこちらの資格ですが、こちらは情報システムの監査・統制に関する国際資格です。日本ではISACA東京支部があり、公式サイトでは日本語での情報も提供されています。特に、監査部門やマネジメント寄りの業務に関わる方が、より高い信頼性と専門性を示すために有効な資格といえるでしょう。
CISM(公認情報セキュリティマネージャー)(難易度:★★★☆)
こちらは CISA 同様、公式サイトで日本語での情報も提供されています。情報セキュリティガバナンス、リスク管理、インシデント対応、セキュリティプログラム管理などを包括的に学ぶ管理者向け資格です。CISA と並んで企業のセキュリティ責任者やマネジメント層に推奨される国際資格です。
ISMS審査員資格(難易度:★★★☆)
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の国際規格であるISO/IEC 27001に基づき、組織内部での監査スキルを習得・証明できる資格です。資格の詳細や取得要件は認証機関ごとに異なるため、事前の確認が必要ですが、セキュリティ監査を担う人材としての信頼性を高めるうえで非常に有効な資格といえます。
資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
CISA(公認情報システム監査人) | ★★★☆ | ISACA(国際) | 随時(日本語・英語対応) | 約115,000円 |
CISM(公認情報セキュリティマネージャー) | ★★★☆ | ISACA(国際) | 随時(日本語・英語対応) | 約$575(非会員)〜$760 |
ISMS審査員資格 | ★★★☆ | JRCA(日本) | 研修・試験(筆記・オンライン等)(日本語・英語対応) | 約20万円(研修+試験) |
C. 社内インフラとセキュリティ運用における専門性を高めたい
CCNP Enterprise(難易度:★★★☆)
Cisco Systems が提供するプロフェッショナルレベルの認定資格であり、企業ネットワークの設計や運用に関する専門知識を証明するものです。ネットワーク機器の構築や運用に関する幅広い知識を問われ、コア試験とコンセントレート試験(複数の中から1つ選択)の2つに合格する必要があります。ネットワークエンジニアやインフラ担当者がネットワーク技術を深く学ぶうえで有用な資格です。

AWS Certified Security – Specialty(難易度:★★★☆)
Amazon Web Services(AWS)が提供するクラウドセキュリティに特化した中上級資格です。アクセス管理(IAM)、データ暗号化(KMS)、ログ監視(CloudTrail、CloudWatch)、検知サービス(GuardDuty)など、AWS 環境におけるセキュリティ構成のベストプラクティスを幅広く学ぶことができます。特に、オンプレミスからクラウドへの移行が進む企業において、インフラ担当者や社内SEがクラウドセキュリティを強化するための重要なスキルとなります。

Microsoft Certified:Cybersecurity Architect Expert(SC-100)(難易度:★★★☆)
Microsoft が提供するセキュリティ設計に特化した上級資格です。Azure や Microsoft 365 環境におけるID管理(Entra ID)、アクセス制御、インシデント対応(Defender XDR)、クラウドアプリ制御(Defender for Cloud Apps)など、マイクロソフト製品を活用した総合的なサイバーセキュリティ対策を設計・構築する力を得ることができます。
※その他、IPAが提供する共通キャリア・スキルフレームワークのレベル4に該当する試験も、自身のキャリア志向に応じて検討するのも良いでしょう。
資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
CCNP Enterprise | ★★★☆ | Cisco(米国) | Pearson VUEにて随時/CBT形式 | 約$400〜$600(試験科目数により) |
AWS Certified Security – Specialty | ★★★☆ | AWS(米国) | 随時/CBT形式/英語+日本語対応 | 約$300 |
Microsoft Certified:Cybersecurity Architect Expert(SC-100) | ★★★☆ | Microsoft(米国) | 随時/CBT形式(英語、日本語あり) | 約$165(Microsoft 公式より) |

さらに高い専門性を目指す方へ(上級エンジニア向け)
ここからは、セキュリティを専門に据えた上で、より高い実践力・戦略性・専門知識を求められるステージへ進む方に向けた資格です。
攻撃技術・レッドチームスキルを極めたい
OSCP+(Offensive Security Certified Professional)(難易度:★★★★★)
仮想環境における脆弱性調査、侵入、特権昇格といった包括的なペネトレーションスキルが求められるだけでなく、診断結果をまとめたレポートの提出も必須となるため、実務に即したスキルが総合的に問われる資格試験。世界的にも認知度・影響力の高い資格の一つとされており、実践力を証明する上で非常に有効です。

CRTE(Certified Red Team Expert)(難易度:★★★★☆)
AD環境におけるより高度な横展開、権限昇格、検知回避テクニックなどを学べる資格です。Red Teamとしての深い理解と戦術レベルでの攻撃手法を体系化できます。

GXPN(Certified Red Team Windows)(難易度:★★★★☆)
SANS Institute が提供するペネトレーション資格。GPEN の上位互換に位置づけられる高度資格であり、Windows バイナリの脆弱性を狙ったエクスプロイト開発や逆アセンブル・シェルコード理解が求められます。GPEN/GWPT と同様に、試験は英語で実施され、技術力と英語力の双方を証明することができます。
資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
OSCP+(Offensive Security Certified Professional) | ★★★★★ | Offensive Security | 実技試験(24時間+レポート)/随時(CBT) | 約$1,599(LAB+試験パッケージ) |
CRTE(Certified Red Team Expert) | ★★★★☆ | Altered Security | 実技試験(48時間ラボ+24時間レポート) | 約$299(講義込みで$499) |
GXPN(Certified Red Team Windows) | ★★★☆ | SANS Institute(米国) | 選択式/CBT(随時) | 約$949(試験のみ)/講座込みは$7,000超 |
防御・脅威ハンティングを極めたい(ブルーチーム)
DF資格認定(難易度:受験レベルによる)
特定非営利活動法人 デジタル・フォレンジック研究会が開催している資格試験です。基礎レベルであれば、指定のテキストでの学習が可能である一方、実務者・管理者レベルは、実務経験と十分な知識が必要になります。

GCFA(GIAC Certified Forensic Analyst)(難易度:★★★★☆)
SANS Institute が提供する、マルウェア感染や侵入後の証跡を残すファイルやレジストリ、ログの解析を行うスキルが求められるフォレンジック分野の専門資格です。
GCIH(GIAC Certified Incident Handler)(難易度:★★★★)
同じく SANS Institute が提供する資格であり、インシデント発生時の初動対応から調査、封じ込め、再発防止策までを網羅する実務者向けの資格。SOCやCSIRT業務に携わる人に対して有効です。
GREM(GIAC Reverse Engineering Malware Certification)(難易度:★★★★☆)
SANS Institute が提供する資格の中でも、マルウェア解析に焦点を当てた資格になります。実務としてマルウェア解析に携わりたいと感じている人はもちろん、脅威インテリジェンス系の道を志す人は知っておいても良い資格だと思います。
PMRP(Practical Malware Research Professional) (難易度:★★★★☆)
TCM Security が提供する、比較的手頃な価格でマルウェア解析スキルを体系的に学べる実践資格です。同様に、マルウェア解析スキルの証明である GREM(SANS GIAC)に比べて安価に始められ、逆アセンブリ、パッカー、挙動解析などがカバーできます。

Blue Team Level 2(BTL2)(難易度:★★★★☆)
Security Blue Team が提供する、EDRやSIEMを用いた脅威検知、ログ解析、アラート対応などを演習形式で学ぶ実務ベースのブルーチームの資格です。前編で紹介した BTL1 の上位資格として位置づけられています。費用は BTL1 と比べて高めではあるが、ブルーチームとしての業務を主に取り組んでいて、かつそのブルーチーム力を示したい人にとっては価値のある資格だと考えます。
資格名 | 難易度 | 主催・提供元 | 試験時期・形式 | 費用(目安) |
---|---|---|---|---|
DF資格認定 | 受験レベルによる | デジタル・フォレンジック研究会(日本) | レベルにより異なる/講習+レポート or 記述式 | 3万円〜15万円(レベル次第) |
GCFA(GIAC Certified Forensic Analyst) | ★★★★☆ | SANS GIAC(米国) | 選択式/CBT(随時) | 約$949(試験のみ) |
GCIH(GIAC Certified Incident Handler) | ★★★★ | SANS GIAC(米国) | 選択式/CBT(随時) | 約$949(試験のみ) |
GREM(GIAC Reverse Engineering Malware Certification) | ★★★★☆ | SANS GIAC(米国) | 選択式/CBT(随時) | 約$949(試験のみ) |
PMRP(Practical Malware Research Professional) | ★★★★☆ | TCM Security(米国) | 実技形式(ラボ+レポート) | 約$299 |
Blue Team Level 2(BTL2) | ★★★★☆ | Security Blue Team(英国) | ラボ+シナリオ+レポート(実技) | 約£349 |

資格取得を目指す方へのメッセージ
「資格を持っていても意味がない」という意見は、セキュリティ業界に限らず、IT業界全体でもしばしば耳にします。確かに、業務において成果を出し、実際に役立つ知識や技術を持つことこそが重要である、という考え方は非常に理解できます。
しかし、「資格を持っていても意味がない」という見方には、少し誤解があると感じています。
まず第一に、資格取得を目指す過程では、体系的な知識の習得に加えて、課題を乗り越えるための思考力や継続的な努力が求められます。特にセキュリティ分野では、幅広い知識と論理的な思考、さらには最新技術へのキャッチアップが重要です。資格学習はそのような力を身につける上で、非常に効果的な訓練の機会となります。
また、資格は自分自身の市場価値を可視化するためのわかりやすい指標にもなります。資格の取得には一定の努力が伴い、その過程や成果は、第三者から見た「信用」にもつながります。特に上級エンジニアやスペシャリストを目指す方にとっては、新しい技術に常に挑み続ける姿勢を示すうえでも、資格取得は有効な方法です。実務での経験と知識の積み上げが前提となる一方で、資格はその知識を「体系的に確認する手段」であり、「学び続ける姿勢」を示すものでもあります。資格そのものがゴールではありませんが、キャリアを形作る一つの強力な要素であることは間違いありません。
本記事では、IT未経験者からセキュリティ専門職を目指す方まで、段階的にステップアップできる資格マップを紹介しました。資格試験としてのロードマップで書き切れていないものもありますが、王道の資格は大方カバーできたのではないかなと思います。
それでも、日本国内では意外と知られていない知識やスキルを比較的安価で学べる場所(例えばマルウェア分析スキルやEDR回避術、クラウドハッキング等を学ぶプログラム)もありますが、こちらはまた別の機会に共有したいと思います。
皆様もぜひ、今の自分の立ち位置と目標を照らし合わせながら、次に挑戦する資格を見つけてみてください。
執筆者
