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2026.07.29

企業で脱VPN・脱ワンタイムパスワードを実現するには?キーワードはやはり「ゼロトラスト」

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「従来のVPNやワンタイムパスワードからの脱却」というテーマを、最近セキュリティの現場でよく耳にするようになりました。「これまで頼ってきたVPNやワンタイムパスワードではもう守れない」と言われても、具体的にどう移行すればいいのか、自社にどう関係するのかピンと来ない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、専門用語をできるだけ使わずに、情シス担当者や若手エンジニア、そして中小企業の皆様に向けて、「なぜ今、脱VPN・脱パスワードが求められているのか」の背景と、それを実現するための考え方(ゼロトラスト)、そして基本となるネットワーク対策について分かりやすく解説します。

なぜ脱VPN・脱ワンタイムパスワードの必要性がさけばれているか?

なぜ脱VPN・脱ワンタイムパスワードの必要性が問われているか、それは現代の働き方や最新の攻撃に、従来の仕組みが追いつかないためです。

守るべきデータが「社内」から「クラウド(社外)」へ移行した今、全社員を社内につなぐ窓口だったVPN機器自体が、ハッカーの最大の侵入経路として狙われています。また、ワンタイムパスワードも、数字をリアルタイムに盗み取る巧妙な偽サイト(フィッシング)の登場や、スマートフォンへの通知を連発してうっかり許可を誘う攻撃などにより、簡単に突破されるケースが急増しています。

「一度つながれば安心」「数字を入れれば安全」という前提が崩れたため、これらに頼らず、通信のたびに機器や本人を厳格にチェックする「ゼロトラスト」への移行が急務となっています。

企業において、脱VPNが検討される理由は?

企業が「脱VPN」を検討する理由は、リモートワークやクラウド利用の普及といった働き方の変化に、従来の仕組みが追いつかなくなったためです。

従来のセキュリティは社内を「安全な領域」として守る仕組みでしたが、現在は重要データやシステムが社外のクラウド上へ移行しています。そのため、全ての通信をわざわざ社内のVPN機器に経由させる必要性が薄れ、むしろアクセス集中による通信速度の低下が業務効率を落とす原因になっています。

さらに深刻なのがセキュリティ面の限界です。VPN機器自体の欠陥(脆弱性)を狙ったサイバー攻撃が急増しており、一度VPNを突破されて社内への侵入を許すと、ネットワーク全体に被害が拡大するリスクがあります。

こうした「通信の遅さ」と「侵入された際のもろさ」を解決し、どこからでも安全にアクセスできる「ゼロトラスト」環境へ移行するために、脱VPNの検討が進んでいます。

以上のことから、企業脱VPNが検討される理由は、現時点ではやはりゼロトラストと言えるでしょう。

改めて、「ゼロトラスト」について整理

ゼロトラストは、「社内外のネットワークを区別せず、全ての通信を信用しない」という考え方

ゼロトラストとは、社内外のネットワークを区別せず、全ての通信を「信用しない」ことを前提に、アクセスがあるたびに安全性を確認・認証するセキュリティの考え方です。従来は「社内ネットワークは安全」とする「境界防御」が主流でしたが、テレワークやクラウド利用の拡大により、ゼロトラストが掲げる「常時確認」へのシフトが加速しています。

具体的には、侵入経路となりやすいVPNに依存するのではなく、ユーザーをネットワーク全体ではなく個別のアプリケーションに直接接続させる「ZTNA(Zero Trust Network Access)」などの技術が用いられます。これにより、万が一不正アクセスを受けても被害の拡大を防ぐ、より強固な環境を構築できます。

より具体的に説明しますと、以下のような考え方になります。

これまでの会社のセキュリティは、いわば「お城と堀」の関係でした。

従来の考え方(境界型防御):会社のネットワークという「お城」の周りに頑丈な「堀(VPNなど)」を作り、一度中に入った人(社員や許可された端末)は全員信じる、というスタイルです。

今の現実:どこからでも仕事ができるクラウドサービスやリモートワークが当たり前になり、守るべきデータはお城の外(クラウドなど)に飛び出しています。

つまり、「お城の壁を高くする」というこれまでの対策だけでは、データを守りきれなくなっているのが現状です。

そこで登場したのが「ゼロトラスト」という考え方です。一言で言えば、「社内も含めて、誰も、何も、最初から信用(トラスト)しない。全員に毎回、正しく本人か確認する」という新しい守り方のスタイルを指します。

ゼロトラストの本質は「ネットワークの基本」を理解することにある

「ゼロトラスト」と聞くと、何か新しい高価なセキュリティ製品を導入しなければいけないと思いがちです。しかし、私自身の現場経験から言わせてもらうと、最も重要なのは「ネットワークの基本の仕組み」を正しく理解することです。

PC、サーバー、クラウド、各種セキュリティ製品。会社のIT環境はさまざまな要素で成り立っていますが、それら全てを裏でつないでいるのはネットワークに他なりません。

従来は「社内ネットワークの入り口に鍵をかければ安全」とする境界防御が主流であり、多くの企業がVPNやファイアウォールを導入してきました。しかし、近年ではこの「入り口」となるネットワーク機器自体がサイバー攻撃の格好の標的となっています。例えば、VPN機器を侵入経路として社内ネットワークに侵入され、ファイルサーバーのデータがランサムウェアによって暗号化されてしまった事例(株式会社オリエンタルダイヤモンドなど)が発生しています。

また、全世界で約8万6000台もの Fortinet 製ファイアウォール「FortiGate」が、過去のインシデントで漏えいしたパスワードや初期設定のままのアカウントを悪用され、自動的に不正ログインされる「FortiBleed」という攻撃キャンペーンも確認されています。さらには、リモートワーク環境などで身近に使われるWi-Fiルーターの脆弱性を放置した結果、遠隔から機器を不正に操作される危険性も報告されています。

ネットワークの仕組み(通信がどうやって始まり、どう流れていくか、どこで認証が行われているか)を理解せずに、新しいセキュリティ対策を上から重ねても、どこかに「抜け穴」ができてしまいます。システムを新しくしたつもりでも、裏側の仕組みを理解していなければ、古い機器から引き継いだ安全性の低いパスワード保存方式(SHA-256など)がそのまま残ってしまったり、一度内部に侵入された後の不審な横展開(ラテラルムーブメント)に気づけなかったりするのです。

ゼロトラストとは、社内外のネットワークを区別せず、全ての通信を「信用しない」ことを前提に、アクセスがあるたびに安全性を確認・認証するセキュリティの考え方です。侵入経路となりやすいVPNへの依存から脱却し、ユーザーを個別のアプリケーションへ直接安全に接続させる「ZTNA(Zero Trust Network Access)」などの技術を導入する上でも、「誰が・どこから・どの経路を通って・何にアクセスしているのか」というネットワークの正確な現状把握が不可欠です。

ゼロトラストという最新の考え方を実践するからこそ、通信の根本であるネットワークの基礎知識が「入口」として絶対に欠かせないのです。

ゼロトラストの実現において、情シスや若手エンジニアが今すぐできること

「うちのような中小企業には、ゼロトラストなんてハードルが高すぎる…」と思われるかもしれません。ですが、そのようなことはありません。まずは以下の「基本の確認と見直し」から始めるのがおすすめです。

  • ネットワーク構成の整理:社内のPCやルーター、クラウドが「どうつながっているか(通信の流れ)」を改めて把握する。
  • 設定の正常性確認:社内ネットワークの機器に不要な隙(設定ミスや放置された古い設定)がないか、定期的にコマンドなどで状態を確認する習慣をつける。
  • 基礎知識のアップデート:CCNA などの資格学習サイト(「ネットワークエンジニアとして」や「Ping-t」など)を活用し、通信の仕組みや基本的なセキュリティ設定の知識を体系的に学び直す。

高価なツールを買わなくても、今ある機器の設定を見直したり、担当者の知識を底上げしたりするだけで、企業のセキュリティ強度は見違えるほど上がります。

1.自社のIT資産とネットワークの「正確な現状把握」

まずは、足元のネットワーク環境を見直すことです。サイバー攻撃の多くは、組織が把握しきれていない「死角」から侵入します。例えば、業務で利用しているVPN機器やWi-Fiルーターのファームウェアは最新バージョンに更新されているでしょうか。また、古い機器から引き継いだ安全性の低いパスワードが残っていたり、初期設定のアカウントがそのまま放置されていたりしないかを確認してください。「誰が・どこから・どの経路を通って・何にアクセスできるのか」を可視化することが、あらゆるセキュリティ対策の第一歩となります。

2.ネットには出ない「現場のリアルな声」を拾いに行く

情報のキャッチアップはWeb上のニュースを読むだけでは不十分です。例えば、国内最大級のセキュリティイベント「Security Days(セキュリティデイズ)」のような場に実際に足を運んでみてください。こうしたイベントの醍醐味は、ベンダーの製品説明を聞くこと以上に、他社の担当者との情報交換にあります。「最新のEDR(エンドポイントでの検知・対応ツール)を導入したものの、アラートが鳴りやまなくて担当者が疲弊している」「CNAPP(クラウドネイティブアプリケーション保護プラットフォーム)を検討しているが運用リソースがない」といった、ネット記事には決して載らない現場の生々しい運用課題や本音を聞くことができます。これを知ることで、「ツールを導入すれば終わり」という幻想を捨て、自社に合った現実的な運用設計を描けるようになります。

3.ワークショップを活用したインシデントの「疑似体験」

「いざインシデントが起きたとき、現場はどれほど混乱するのか」は、机上の学習だけでは絶対に分かりません。外部イベントなどで開催されている、フィッシングメール対応などを想定した実践的なワークショップに参加してみることを強くお勧めします。実際に手を動かして判断の難しさや対応の複雑さを疑似体験することで、「自社の従業員向けにどのような標的型メール訓練を実施すれば効果的か」「初動対応のマニュアルに何が欠けているか」といった具体的な骨格が見えてきます。

4.経営層を動かす「伝え方」の技術を盗む

情シスや若手エンジニアにとって最大の壁は、「経営層にセキュリティ対策の重要性を理解させ、予算を獲得すること」です。外部のセミナーに登壇する一流の専門家たちは、複雑な技術要件や最新の法規制(サイバー対処能力強化法やSCS評価制度など)を、「経営層がYESと言いやすい言葉」に変換するプロフェッショナルです。例えば、「社長、これだけは!」といったキャッチーなタイトルの付け方や、ビジネス上のリスク(事業停止や取引先からの信用失墜)を先に提示して解決策へ導くストーリー構成など、彼らのプレゼンテーションから「伝え方の技術」を盗んでください。

日々の業務に追われる中でも、まずは自社の機器の設定を一つ見直すことや、社外のイベントに参加して他社の事例を持ち帰ることから始めてみましょう。現場の若手エンジニアや情シス担当者の「小さな気づきと行動」こそが、組織全体のセキュリティ風土を変える最大の原動力となります。

ネットワークとセキュリティは、決して切り離して考えることができない「表裏一体」

ネットワークとセキュリティは、決して切り離して考えることができない「表裏一体」の分野です。PC、サーバー、クラウド、各種セキュリティ製品といった社内のIT環境を裏でつなぐ「ネットワークの仕組み」を正しく理解せずに、新しいセキュリティ対策だけを上から重ねても、必ずどこかに抜け穴が生じてしまいます。

近年、サイバー攻撃の脅威は自社にとどまらず、セキュリティが手薄な取引先や関連会社を踏み台にしてターゲットの中枢へ侵入する「サプライチェーン攻撃」として猛威を振るっています。実際に、業務委託先のネットワークや子会社の外部VPNシステムから侵入され、大規模なランサムウェア被害や顧客情報の漏えいにつながる事例が後を絶ちません。さらに、2026年5月の「国家情報会議設置法」の成立を手始めに、今後は「サイバー対処能力強化法」の施行(2026年10月)や、サプライチェーン全体のセキュリティ状況を可視化する「SCS評価制度」の開始などが控えており、国を挙げての厳格な対策が求められています。もはや中小企業であっても「うちは大企業じゃないから狙われない」という言い訳は通用せず、自社のセキュリティ水準がビジネスの取引条件に直結する時代へと突入しているのです。

また、社内ネットワークの入り口に鍵をかけるという従来の「境界防御」の限界も明白になっています。VPN機器の脆弱性を突いた侵入や、漏えいしたパスワードを用いたネットワーク機器(ファイアウォール等)への大規模な不正アクセスが多発しており、VPNや単純なパスワード認証だけに頼る時代は終わりを告げつつあります。これからは、全ての通信を信用せずに常時確認を行う「ゼロトラスト」の考え方に基づき、多要素認証(MFA)の徹底や、個別のアプリケーションへ直接安全に接続させる仕組み(ZTNA)への移行が不可欠です。

だからこそ、最新のセキュリティ対策を効果的に運用するための第一歩として、根本であるネットワークの基礎を学び直すことが今とても求められています。まずは自社がサプライチェーンのどこに位置しているのかを再認識し、「誰が・どこから・どの経路を通って・何にアクセスしているのか」という足元のネットワーク環境と情報資産を正確に見直すことから、時代に適応した安全な組織づくりを始めてみませんか?

執筆者

中薗 祐也

中薗 祐也

前職でネットワークエンジニアに5年半従事し、大規模プロジェクトにおいて監視から設計フェーズまで一貫した業務を経験。CCNP 等の専門資格を保持し、ネットワーク分野における高い専門知識を保有する。2026年1月、USEN ICT Solutionsにセキュリティエンジニアとしてジョインし、サイバーセキュリティラボの企画運営や記事執筆を担当するほか、社内の新規事業の立ち上げにも参画。ネットワークエンジニアの知見を活かしつつ、セキュリティエンジニアとして日々セキュリティ技術に関する専門知識の習得に邁進している。
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